少し前のことだが、スーパーのレジの脇のラックに日本の若い女性の顔写真を一面全部に使って、Bye Bye Italy!という大見出しをつけたタブロイド版の新聞があった。早速買って読んでみると、ドイツの新聞と朝日新聞がとりあげたローマについての良くない事柄をいろいろ挙げ、そのために日本からの旅行者の数が目だって減っていると書いてあった。
まずとりあげられたのがタクシーで、ローマのフィウミチーノ空港から市内までの正規料金は40ユーロなのに80ユーロを取られた話。だが、これはもしかしたら正規のタクシー乗り場から乗らず、言い寄ってくる白タクを普通のタクシーだと思って乗ったのかもしれない。とはいえ、料金はメーターどおりでも最短距離を走らずに遠回りして吊り上げるケースは日常茶飯事で、そうしたタクシーに乗った「不幸な」ドイツ人は、まるでローマ観光タクシーに乗ったようだったと言ったそうである。
次は日本人のレストラン被害で、パスタ(プリモピアット:最初の料理)、肉(魚)料理(セコンドピアット:第2の料理)を食べ、ワインを一瓶飲んだだけで二人で7万円以上、シャンパンを飲んだ客は二人で10万円以上請求されたと書かれていた。この場合は旅行会社経由で警察に通報され、そのレストランは営業停止処分となり、TVニュースでも報道された。
次はコロッセオ周辺で、ローマ時代の扮装をしたのがたくさんいて、一緒に記念写真をと寄ってくるが、これにのると後で法外なお金を要求されることが多い。
こうしたことに対するローマのタクシー組合長と当時のローマ市長の弁は次のようなものだった。
―タクシー組合長=悪いタクシーがいたとしても全体から見ればわずかな数に過ぎない。イタリアのタクシーはヨーロッパの他の国よりもずっと安く、旅行者は安く旅行ができる。
―当時のローマ市長アレマンノ=一つや二つ良くない話があっても、ローマの価値は変らない。
上に立つ人間がこんな調子だからローマは改善されないが、ロンドン、パリに次ぐヨーロッパ第3の都市にという目標を掲げているミラノは正反対で、旅行者の安全を第一番に位置づけしている。
手始めにやったのは駅の周辺やドゥオモ付近にたくさんいたジプシーのスリの一掃を図ったことで、そのために電気や水道を無料で使わせ、毎月決まったお金まで支給した。定宿にしていたホテルの顔見知りのフロントは、自分たちは働かなければお金がもらえず税金も払っているのに、彼らは働かないでお金をもらって税金も払っていないと、ぼやいていた。もちろんこうしたスリがまったくいなくなったわけではないが、僕がイタリアに来たころと比べると、ずいぶん少なくなったことは確かである。また、以前はドゥオモ(大聖堂)の広場には、記念写真用にとツーリストに鳩の餌のトウモロコシを握らせて、写真を撮ったあとで500円といった押し売りがたくさんいたが、これも一掃した。トウモロコシ売りがいなくなったら、鳩の数が目だって減った。
タクシーについては、運転席の背もたれの後ろに何かあった場合の連絡先の電話番号が表示されているし、もらった領収書にもそれが書いてあった。ミラノのタクシーはサーヴィス評価がヨーロッパ22都市中4位だそうが、一度びっくりするようなことがあった。 ミラノの駅からタクシーに乗ったところ、工事中にぶつかり遠回りする破目になった。まあ仕方がないかと思っていたら、運転手が、工事中の道を選んだのは自分だから、いつもの料金でいいと言うのである。これには感動して、君の責任じゃないと、メーターどおりの料金を払ったが、ミラノにはこんな正直運転手もいる。さて、こんな場合、日本ではどうなるだろう…。